| ハァッハァッハァッ… 自分の家の玄関、ドアを背にして、俺は立っていた。 荒い息を整える余裕も無くて、俺はただ早い鼓動に押されるからという理由で息を吐き出していた まるで、何かに怯えている子供みたいに… ハァッハァッハァッ… 我に返ったといえばあまりにも無責任だが、その時はそんな言葉でしか自分を納得させられなかった 「おっさん…抵抗しないのかよ」 あまりにも、自分で言っておいてあまりにもオカシイ台詞。 いや、自分が、この言葉をオカシイと思っている事自体が…オカシイ 現状を見てみろ。俺は今あのおっさんの上に馬乗りになって、おっさんをひたすら自分のいいように動かしている。 おっさんは、荒い息遣いで、時々うめき声か喘ぎ声か分からないぐらいの、小さな音をたてる。 それさえも、耳障りで、黙らせたくて、また強く自分自身を中にねじ込んだ。 自分が一体何をしているのか、何をしたいのか、わからない。 ただ、こうなった。こうしたくて、しかたがなかった。 おっさんは、さっきの俺の問いにも答えず、ただ俺を見つめ返した。 それは呆れや怒りなどではなくて―…いっそそっちの方が何倍も良かっただろうに。 俺はまた、おっさんに口づけて喉の奥に流し込んだ。感情を。 その時は、ただ、こうしているしか、なかった。 3度目の生をぶち込んだ後に、逃げるように俺は帰ってきた。 何度も通ったこの道が、たった玄関まで、玄関から目の前の自分の家の玄関までの、この道が、永遠のように長かった。 何かが追ってくるから、逃げたい一心で、振り返らずに走った。 ハァッハァッハァッ… 自分の家の玄関、ドアを背にして、俺は立っていた。 とりあえず、靴を脱いで、洗面台へ、 そこにちょうど、嫁の足音、子どもの笑い声。 ガチャッ「あんたただいまー!ちょうど大作も帰りでさ!一緒に夕飯の買い物行ってきたよ!」 時計を見れば今は4時。 俺は蛇口から直接水をかぶって、顔を上げた。 鏡に映った自分の顔を見て気がついた。 俺が振り向くのを恐れたのは追いかける者に捕まる事じゃない。 俺が…振り返った俺自身が、戻ってしまうことを、恐れたんだ。 「おぅお帰り…今日の晩飯は何だー?」 今日もまた食卓に灯がともる。 幸せな家庭の象徴。 その真ん中でぼんやり考える。 明日のこと。 明日は、どんな顔をして、会いに行けばいいのだろう… |